誌上参拝

013_456「あまてらしますにぎみたま」


流れに身を任せればいいんだよ・・・と、言葉ではわかっていても。

つかまるところがないって不安がってみたり、

もがきすぎて苦い水を飲んでしまったり。


でもそれでも、遠い遠いところから私たちはここまで流れてきていて。

そして、これからも・・・。

水の流れに磨かれて、ゴロンゴロンとした石ころだったのに、

すべらかな珠に戻っていく。


始まりの時のあのスルンとした無垢の珠に。

その事を夢見て、これからも流れていく。


新年にこの御幌(みとばり) の前に立つ。

悲喜交々、抱えたこの身でそれぞれが立つ。

こみ上げてくる思い。解き放たれていく思い。それぞれに。


そしてフワリと風が吹く。~よくまいられましたね~・・・。


御光りの前で、真にあるあなたの珠を見つめていることに気がつく。

あのスルンとした無垢の珠である自身を思い出していることに。


そしていつしかゆったりと、ゆったりと流れに浮かんでいく・・・。

                2022年 冬 Akiko Komai.

伊勢神宮内宮 正殿の御幌(みとばり)


007_ 268「木花咲耶姫 このはなさくやひめ」


白々と凍てついた残雪の下に、細く水が流れ始め、

大地が少しずつ緩みながら、黒々と息を吹き返してくる。

うっすらと霞のような薄緑が芽生え始めるころ、

射しはじめた光りの中で最初に膨らむ色は、桃色。桜色。

柔らかな、優しいこの色は、ほんのり暖かさを増した陽の光りとともに、

待ちわびていた心に暖かさをもたらしてくれる。

肩をぎゅっとすぼめて、冷たい風を耐えていた体をふわりと緩めてくれる色。

この姫は、春を待ちわびていた世界に暖か色の光りを振りまいてくれる。

新しく始まるこの季節。

恐る恐る踏み出す足元に、こわばった頬に、震えそうな指先に、

この姫が、暖か色の光りを振りまいてくれる。

新しくスタートするこの季節。

この姫を心の中で思い出すと、きっと力になってくれる。

なにしろこの姫は、火と水をたっぷりとたたえたあの山の、

この国最強の姫なのだから。

                 2023.3 Akiko Komai.


008_ 318 「猿田毘古神さるたひこのかみ」


生きていると、幾度となく分かれ道に立つことがある。

日々、小さなことから大きなことまで、次から次と分かれ道の連続。

大きな分かれ道で、途方に暮れて目の前が暗闇に思えるかもしれない。

小さなことで、毎日くよくよしているかもしれない。

でも気が付いて!

天には必ず日の光りがあり、照らしてくれている。

誰の道も、照らしてくれている光りがある。

 

 天の八衢(やちまた)に立ち、

 上は高天原、下は葦原中国までを照らす神がいた。

天の王子が地上に降り立ち、旅をはじめた。

荒波にもまれ、高い山に阻まれ、

深い森の中で、どこにいるのかもわからない。行く手を見失いそう。

はるか彼方に照らす光りがあった。

分かれ道を照らす光りを、彼方に見つけた。

王子は立ち止まり、ため息をつく。

しばし目を閉じる。

そして大きく息を吸い、見つけた光りに従うことを心に決める。

そして、同行の仲間と言葉を交わし歩き始める。

天の光りを導きと受けるなら・・・心を決めること。

                 2023.3 Akiko Komai.


008_ 316 「月讀尊 つきよみのみこと」


池の水に映る月。

風に吹かれ、散り散りと砕け、

そしてまた、いつしか冴え冴えと映る月。

暗い水の底の底まで、まっすぐと一筋の銀の糸のように。

その光りは暖かい? 冷たい?

空の高みでうっすらと笑っている。

わたしの光りは…鏡の光り。熱くも冷たくもないですよ。

暗い水の底、幾重にも幾重にも溜まった澱りを、

そっとかき混ぜるかのように、銀の糸は揺れる。

暗がりで熟成されたよう、心の泡がふつふつと。ふつふつと。

その光りを受けるとき、どうぞ耳を澄ませてみて。

月の光りは音もなく、水の底まで静かに差し込んでくる。

そしていつしかその泡は、夜空へと消えていく。

水は底まで冴え冴えと、澄みわたる。

2023.4 Akiko Komai.


008_ 313 「瓊瓊杵尊 にぎのみこと」


黒くごつごつとした磐に駆けのぼり、大海原を眼前に息をのむ。

ここから歩く大地の上に、しっかりと立てるよう。

天の光りを大地に伝え、一歩一歩と進むことが出来るよう。

背骨に「水晶の剣」を仕込んだ。

朝な夕なの麗しき思い。生きてこの方、受けてきた暖かな思い。

時にくじけても、光りを見つけようと過ごした思い。

そして今、この胸の高鳴りを両の手で丸く丸く、丸く丸めて。

胸の真ん中に、その「幾重にも丸めた玉」を仕込んだ。

そして手には。

自らの心の内を顧みることが出来るよう。

その心を映すことが出来るよう、「清く磨かれた鏡」を持った。

三つの宝を携えて、王子は地上に降り立った。

磐に座しこれからの行く先へ、その先へ眼差しを向けた。

大海原は沸き立つように、天の輝きで満ちていた。

陽の勢い、地の勢い、風の勢い、水の勢い。

天地に満ちるすべての勢いが、心沸き立つ王子に祝福を送っていた。

                    2023.5 Akiko Komai.


008_ 301 「天宇受売命 あめのうずめのみこと」


目を閉じて、耳を澄ます。

風の音、鳥の声、木の葉のこすれ、せせらぎの音。

耳を澄ますと聞こえてくる。心の音。

風のように、海のように、からだの内側を巡っている音。

目を閉じて、耳を澄ませて心の音に導かれる。

肌に触れる世界と、思いに浮かぶ世界が溶けあって、

大きく膨らんだり、小さく囁くようであったり、

目を閉じて、耳を澄ませて導かれる。

からだが伸びる。

からだが縮む。

からだが震える。

からだが跳ねる。

からだが廻る。

心が伸びる。

心が縮む。

心が震える。

心が跳ねる。

心が廻る。

天の響き、大地の響きが心の響きと溶けあい、

世界はきらめきで満たされていく。

心の音と、肌を撫でていく世界の音と。

織りなす調べに導かれるままに。

              2023.6 Akiko Komai.


008_303「伊邪那岐命・伊邪那美命

いざなぎのみこと・いざなみのみこと」


くーるくる くーるくる。

この器に何を入れよう。

くーるくる くーるくる。

光りのヌボコでくーるくる。

甘い味、しょっぱい味、酸っぱい味もくーるくる。

時には苦味も、そして豊かなうま味も。

いろんなものを入れられる。

この透明な器の中に。

光りのヌボコを両の手に持って、

くーるくる くーるくる。

得も言われぬ世界が、ポコポコと湧き上がってくる。

好きな味付けで良いんですよ。

いろんな具材を入れて、良いんですよ。

自らの光りのヌボコでかき混ぜて、

自らの光りでこの器を満たしましょう。

暖かくて優しくて、平安で懐かしくて、

力強く生きていきたいから・・・。

そんな味付けをいろいろたして、

私の両手でくーるくる。

自分の両手でくーるくる。

あなたの器、私の器、あの人の器、みんなそれぞれ。

それぞれの味が光りの中で熟成されて、

新しい器を満たしていく。

そしてまた、くーるくる。

      2023.7 Akiko Komai.


008_296「市寸島比売命_弁財天

いちきしまひめのみこと」


降り注ぐ。

浸みわたる。

湧き出でる。

流れる。

命の流れに、寄り添い流れる水。

命の営みに、寄り添い潤す水。

潤いを囲むように、拡がり根付く命。

津々浦々に水に導かれ、営みが根付いていく。

清らかに、見守ってくれている水の女神。

清らかな微笑で、見守ってくれている光りの女神。

両の手に、水の宝珠を持ち、招いてくれる。

両の手から、光る水の宝珠を溢れさせ、導いてくれる。

求めなさい、この宝珠を。

求めなさい、いくつでも。

求めなさい、この豊かさを。

求めなさい、豊かさをいくつでも。

水を受け取り、身も心も満たされる。

宝珠を受け取り、豊かさに笑みがこぼれる。

清らかな水に、笑顔が溢れる。

潤いの津々浦々に、豊かな笑みが拡がっていく。

求めなさい、いくつでも。

求めなさい、豊かな笑みを。

      2023.8 Akiko Komai.


006_250「国常立尊 くにとこたちのみこと」


霧のような、靄のような暗闇の中を漂っていた。

時折、周囲を閃光が走ることもある。

遠くに微かな煌めきが、産まれたり、消滅したり。

夢の中に漂っているような、

何かを思っている・・・けど、何を?

どうしよう? どうしたい?

イメージが浮かぶ。

思い描く世界をぼんやりとイメージする。

心惹かれる世界をイメージしてみる。

掌でこねて、両の手で丸めてみて・・・。

さて、その世界を生きてみようと、

さて、どうやって?

イメージした世界を生きるには、足をつけて立たなければ。

足をつけて立てる大地を、星を作らなければ。

イメージの青写真を拡げ、その大地を、地球を作ってくれた。

お陰で私たちは、大地に足をつけて、生きていくことが出来る。

さて、この世界の先を生きていくためには?

ここからは私たちが青写真を、イメージを膨らませていく。

あなたのイメージ。私のイメージ。あの人のイメージ。

どれもみんな、大地に浸み込んでいく。

暖かく、明るく、生き生きとした、笑顔のさざめきが溢れる世界。

私たちがその青写真をイメージして、そして生きていく。

                 2023.9 Akiko Komai.


010_390「大国主命 おおくにぬしのみこと」


若者は才気にあふれていた。

身体も大きく、丈夫で良く働いた。

役立つ知恵も沢山、身につけていた。

季節の作業に精を出す人々を手助けし、

病で伏せる人々に、役立つ知恵を分け与え、

心優しく、愛にあふれていた。

人々はその人柄を、優しさあふれる人柄を慕っていた。

そのことが、逆風にさらされる元にもなった。

陥れられることも。また戦うことも。

各地を巡り、人の役に立つように。

己の知恵を分け与え、笑顔が戻ってくるように、

笑顔が増えていくように、惜しみなく働いた。

細やかな愛を、惜しみなく分け与えた。

戦うこと、戦わないこと。

心に巡る思いに、迷わされることも。

幾年月を迷いながらも、己を磨き、才気はますます溢れて。

戦わない術に出会った。

認め、譲り、託す。

光り輝く若者は、今や堂々とした翁になって、

天高く聳え立つ、階段を昇って行った。

光り輝く神殿から、いつも見下ろしてくれている。

見渡す限りの国々の、隅々までに目を凝らし、

縁のある者同士、出会うべき人々が、

互いに相手に気づき、結びつきを深められるように。

光り輝く神殿から、いつも見下ろしてくれている。

いつも愛の思いを送ってくれている。

                 2023.10 Akiko Komai.


009_341「須佐之男命 すさのおのみこと」


大切な人を亡くし、独りぼっちで哀しみに暮れる。

恋焦がれる、激しい炎のような心。

冷たい水底のような心。

辺りをなぎ倒し、泣き叫び暴れまわる。

置き処のない心が、火になり氷の剣にもなる。

嵐が過ぎ去り、冷たい風に吹かれて思いを巡らす。

朝焼けの中で大きくため息ひとつ。

暖かなぬくもりを思い出し、熱い涙があふれ出る。

そして。

風の中で震える花を見て心が揺れた。

振り上げた剣が、破壊のやい刃にもなれば、

突き進んだ先で、出会った命を救うことにも。

命を懸けて守った花が、ぬくもりで包みこんでくれた。

寄り添ってくれる命は、安らぎの居処を笑顔で満たしてくれた。

「八雲立つ 出雲八重垣 妻ごみに 八重垣つくる その八重垣を」

微笑む花は、迷い道を指し示す光りの道標べとなった。

                 2023.11 Akiko Komai.


008_308「瀬織律比売命 せおりつひめのみこと」


目の前に、真っ白に光る水面が拡がっていた。

白い水から、白い姫がすっと立ち上がった。

白いような、透き通っているような、

眩い光りで包まれていた。

山深き森の奥、湧きいでる清らかな水。

一筋の水が、幾筋も集まり音を立て流れる瀬となる。

さくなだり・・・。

岩をも超えて流れ落ちる瀧。

水は幾千万の光りの粒とないり、霊気が辺りを充たしていく。

水は集まり、広々と陽を受けて流れ。

細き管を流れ、命の営みの隅々までに運ばれていく。

そして集められ、海原へと続く河口へ。

細き管より流れ落ちる、ひとしずく、ひとしずくにも、

山深き白い姫の祈りが、包み込まれて流れている。

祓われよ。清められよ。

さくなだりの、光りの粒となった水。

祓われよ。清められよ。

陽の光を受け運ばれて、届けられる水ひとしずくにも、

白い姫の祈りは込められている。

祓われよ。清められよと。

                 2023.12 Akiko Komai.


010_375「天之御中主神 あめのみなかぬしのかみ」


宇宙の始まりの時、煌めいた閃光。

今のここまで、ずっとつながっている。

幾筋も、幾筋もの閃光が飛びかい、

交差し、離れ、まためぐり逢い、離れ、

弾けて、絡み合い、離れて、めぐり逢い。

こんなにも複雑に、あの時の閃光が絡み合うとは。

神々は、あの始まりの時に思っていただろうか。

こんなにも多様に、

最初の煌めきが光りの網の目となって、世界に拡がっていくと。

神々は、その未来を思い描いていただろうか。

この網の目の光りのラインの上に、今私たちはいる。

絡み合い、離れて、弾け合い、離れて。

そしてまた、めぐり逢い。

悠久のあの時から、そして悠久のこの先へ。

絡み合い、閃光がまたほとばしる。

離れて、閃光がまたほとばしる。

弾け合い、閃光がまた絡み合う。

・・・・・。

私たちは世界を光りの網の目で埋め尽くしていく。

神々も、もしかすると思いもよらなかったほどに、

私たちは世界を光りの網の目で満たしていく。

この網の目の光りのラインの上で、私たちは今を生きている。

                     2024.1 Akiko Komai.



『誌上参拝』はビオマガジン社発刊の月刊誌anemone2023年度の表紙に使われた作品に

メッセージとして掲載されたAkiko Komai.のエッセーです。

2024.08.20 Akiko Komai.